絵具
画業45年以上、ニッカーさんのポスターカラーを使ってきました。この24色を組み合わせて様々な色を作っています。
写真は中瓶で制作実演のイベントの時に持っていくサイズで、普段のアトリエでは大瓶を使っています。
多くのアニメーションを文字通り彩ってきた絵具です。最近はデジタル化が進み、アナログの背景は少なくなりましたが、作品によっては硬質な建築物等はデジタルで、柔らかい自然物はアナログで描き分けるやり方もあります。素晴らしいアナログ技術のアーティストがいるスタジオも少し残っていて、業界で少数であるが故に逆に重宝されているともいえます。
需要の多いデジタル技術を磨くことも大切ですが、ステップアップするためにはアーティストとしての特色を監督に認知してもらうことが大事です。その特色がアナログ技術での柔らかい自然描写や、アナログで描いた素材をデジタル上で再構成するのが優れている、といった選択肢があってもよいのではないでしょうか。
気を付けてほしいのは彩度や光の扱いです。パソコンの画面はそもそも光っていますので、デジタル上で彩度を上げようとすれば簡単に鮮やかな色合いになりますし、光を強くできます。そのため不自然な、人工着色料を塗り付けた食べ物のような色合いになってしまう懸念もあります。
アナログの場合、紙と絵具そのものは光りません。様々な色の取り合わせによって鮮やかに見えたり、光って見えるように表現します。ある程度の修正はできますが、デジタルの様にがらっと変えることはできません。地塗りはほぼ一発勝負と言ってもいいでしょう。だからこその緊張感やうまくいった時の喜びもあるのではないかと思います。気温や湿度など、季節によっても絵具ののりが変わってくるのも面白さであり難しさでもあります。
プロを目指す方向けに書いてみましたが、趣味で楽しみたい方にもアナログでアニメーションの背景画のように風景画を描いてみてほしいです。やればやるほど、終わりのない楽しさや心豊かな時間が生まれると思います。うまくいかない時のつらさもあると思いますが、その向こう側にはきっと心地よさがあるはずです。絵具をまぜる行為は精神衛生上いいらしいですよ。
高校生の時にポスターカラーの使い方を習った方も多いと思いますが、使い方がだいぶ違います。デザイン画の授業ではぺたっと均等に塗り分けていると思いますが、
アニメの背景画ではまず画用紙を表裏たっぷり水で湿らせて、乾く前に一気に地塗りをします。刷毛を使ってぼかしをかけ、乾いた後に細部を描きこんでいきます。
以前、ニッカーさんの工場 に見学に行ってきました。2019年春でしたので、現在は移転しています。とてもかわいらしい雰囲気で、歴史とアートを感じさせる素敵な場所でした。
創業70年、この道60年の職人さんが調合して作っています。季節によって変わる気温や湿度、素材の状態によって練り方を調整しながら、変わらない発色を作り続けるというのは本当に難しい技術だそうです。
スーダン産のアラビアガム(樹液)をのりとして使用しているのが重要だそうです。画用紙を水張りして地塗りをした際にきれいに伸びてムラが出ません。
絵具の色を作るスペシャリストが長年使ってきた研究室です。魔法使いの部屋のようです。